夢 の 左 右 両 利 き 職 人


 私がまだ丁稚(でっち)のころ、右指をカッターできってしまい、やむなく左手で カッターを持ち、作業した。それを機に、「左手でもカッターを持てる職人になら なければ…」と、両刀使いの道を選んだ。

 それ以来、独自で訓練し、いまでは左右の概念がないほど、自然に扱える。 そして、腰道具入れ(腰ぶくろ)の都合により、左利き用である時計まわりの貼 りかたのほうが速く、メーンである。

 もともと左利きである。子どものころに親に矯正された結果、ペンと箸は右手、ボールを投げたりするのは 左手という、特殊な利き手になってしまった。

 ヘラの持ち方は右利き用。左上の写真のとおり、パテを打つのも両手でできる。これは便利だ。疲れたら 逆の手で作業を行なえばいいのだから、永遠に疲れることなく作業ができる。

 メリットとして、階段室において、都合のよい貼りかたで作業ができる。柄モンの材料も、天地逆巻きでも 対応でき、クロスを巻きなおしたり、カットテープをつけ替えたりしなくてもよい。新規現場の場合、ボードのV 目地をそらすため、逆方向から貼り始めることもできる。

 とまあ、挙げればきりがないが、デメリットもある。貼り出しの際、たまに混乱するときがある(笑)。あと、 応援に来てもらうときは不便である。ほとんどの職人さんは右利きである。そんなときにかぎって、左利き用 の貼りかたで作業していることがあり、来てくれた職人さんがとまどってしまう。

 ある職人さんは、「左右両利きは、クロス屋の夢だ」とも言っていた。私からすれば、夢ならかなえろと言い たい。ぜひマスターするべきである。

 とはいうものの、やはりむずかしいだろう。独立してからでは、今から訓練しますというような“冒険”はでき ない。ある建築会社の社長は、息子を両利きにさせようとしたが、本人が抵抗し、できなかったという。「DN Aだよ、DNA!わしができんから息子もできんのじゃ!」と言っておられた…(笑)。

 そうはいっても、私の親は、みな右利きである。つまり、私が突然変異のヘンクウかもしれない。誰もしな いようなことにこだわるのだから。

 しかし、そのこだわりが、新しいものを生み出す原動力になることはいうまでもない。いま親方のもとで修 行されている職人さんがいるならば、ぜひ訓練するべきである。一人前になって独立してからでは遅い。い まじゃないと、失敗という経験を積むことができないからである。

 あとは、そんな両利きを目指すということを、親方が納得するかどうかである。私のときでも、「あんた左利 きか?そんなことしていたら、いつまでたってもうまくならん」と、ある先輩に怒られたことがある。「ならば、ど っちも鍛えれば、いつかうまくなる。それに、両利きは便利に決まっている」と、かたくなにそう心に誓ったも のだ。

 知り合いに、左利きの職人さんもいる。親方が右利きで、ヘンな強要を受けたのか、右手でもカッターを持 ち、ぎこちない仕事をしていた。それでも、その職人さんは、いまから訓練すれば間にあうだろう。しかし、い まさら訓練するモチベーションもなく、完成するのはむずかしい。

 結果、両刀使いになったであろうすばらしい花の芽を、凡職人である親方のエゴにより、つんでしまったこ とになる。もし私がその職人さんの親方だったなら、きちんと指導して、うまい両利き職人にさせただろう。

 「継続は力なり」という言葉は本当である。毎日、訓練していれば、いつかできるようになる。「右利きだか ら」という固定概念をぶち壊してほしい。そして、いま丁稚や子分の方々には、ぜひ挑戦してもらいたい。夢 の左右両利き職人に。






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